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author | sugi |
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date | Thu, 29 Jan 2015 14:56:54 +0900 |
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--- /dev/null Thu Jan 01 00:00:00 1970 +0000 +++ b/paper/chapter1.org.tex Thu Jan 29 14:56:54 2015 +0900 @@ -0,0 +1,214 @@ +\chapter{分散フレームワーク Alice の概要} \label{chapter:chapter1} +Aliceは、本研究室で開発を行っている分散タスク管理フレームワークである。Cell用のOpen CLに似たTask管理フレームワークCeriumとLindaを相互に接続した分散フレームワークであるFederated Lindaの開発を通して得られた知見が生かされている。 + +Ceriumでは、Taskを小さく分割して並列実行し、データ転送はパイプライン実行により隠される。Task間に依存関係があるが、実際にはデータの依存関係がそのままTaskの依存関係になることが多い。繰り返し使われるデータ構造の管理が重要であり、実行時にわかるデータ構造間の依存関係がTaskを複雑にしている。 + +Federated Lindaでは、Lindaサーバ内部にMeta Engineと呼ばれるLindaのタプル(データ構造)をやり取りする部分を作成した。Meta Engineでは、タプルのやり取りによって起動するcall backを使うが、call backによる記述が分散してしまい、可読性を落としてしまう。また、複数のタプルの待ち合わせが重要だが、その待ち合わせはsingle threadedなMeta Engine内部の状態に依存する。 + +これらが示しているのは、並列分散実行はコードの並列実行だけでなく、データの単位が重要だということである。そこで、AliceはData SegmentとCode Segmentという単位でデータと処理を細かく分割し、それぞれの依存関係を記述して分散プログラムを作成する。 + +Data SegmentはCode Segmentと分離されたデータ構造であり、オブジェクトではない。オブジェクト指向プログラミングが状態を複雑に持ち、並列実行や分散実行に向かないことは徐々に理解されてきている。一方で、状態自体は有限状態遷移機械(Finite State Machine/FSM)で記述するのが自然である。Code Segmentは状態遷移記述そのものであり、その状態遷移はData Segmentの到着によってトリガーされる。 + +カプセル化されたデータをプロセスがやり取りするのは、DFD(Data Flow Diagram)の古典的な手法であり、それ自体は新しくはない。むしろ、メインフレーム上でのソフトウェア開発に良く使われてきた手法である。Alice では、それを再実装する。 + +AliceはCode SegmentとData SegmentをJavaとMessage Packで実装したフレームワークである。Topology Managerを持ち、Blade上での +分散プログラムの実験を容易に行うことができる。また、SEDA Architectureを採用しており、マルチコア上でのスループットの向上を期待している。 + +\section{Data Segment} +Data Segmentはデータを細かく分割したものであり、数値や文字列などのデータを構造的に保持する。AliceはData Segmentをデータベースとして扱っている。Data Segmentには必ず対になるKeyが存在する。つまりKey Value Storeとして考える事ができる。 + +Aliceのデータベースは通常のKVSとは異なっている点がある。通常のKVSはプログラミング言語の連想配列やMapと同様に 「Key(キー)」と「Value(値)」がペアとなっている。そのため1つのKeyに対して値は1つである。しかし、Aliceの場合は「Key」と「Queue」がペアとなっているため、Keyに対して複数回putできる。従って取得できるValueも複数存在できる。Key毎の追加と取得はLindaに準じた設計になっている。 + +Data SegmentはData Segment Manager(以下DSM)によって管理されている。ノード毎にLocal DSMとRemote DSMが存在する。Local DSMは各ノード固有のKVSとなっている。従ってRemote DSMを指定するKeyはノード内部でuniqueなものである。Remote DSMは他のノードのLocal DSMのproxyと考えられる。つまりRemote DSMは複数存在し、それぞれに対応するノードは異なる。 + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics{images/remote_datasegment.pdf} +\end{center} +\caption{Remote DSMは他のノードのLocal DSMのproxy } +\label{fig:RemoteDSM} +\end{figure} + +KVSへのアクセスはqueueによって、ノード内部で逐次化される。それ以外は、すべてJavaのThread Poolにより並列実行される。 +\subsection{Data Segment API} +以下が用意されているData Segment APIである。これらを用いてデータの送受信を行う。 +\begin{itemize} +\item \verb+void put(String key, Value val)+ +\item \verb+void update(String key, Value val)+ +\item \verb+void peek(Receiver receiver, String key)+ +\item \verb+void take(Receiver receiver, String key)+ +\end{itemize} +\subsubsection{put} +putはデータをQueueに追加するためのAPIである。Lindaのout()に相当する。(図 \ref{fig:put}) +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=100mm]{images/put.pdf} +\end{center} +\caption{queueにデータを追加する} +\label{fig:put} +\end{figure} + +\subsubsection{update} +updateはデータを置き換える特急メッセージのように動作する。Lindaのupdate()に相当する。(図 \ref{fig:update}) +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=100mm]{images/update.pdf} +\end{center} +\caption{update"は先頭データを取り除き、queueにデータを追加する} +\label{fig:update} +\end{figure} + +\subsubsection{peek} +peekはデータを読み込むAPIである。読み込まれたデータはQueueに残る。要求したデータが存在しなければ、Code Segmentの待ち合わせ (Blocking)が起こる。putやupdateによりデータに更新があった場合、peekが直ちに実行される。Lindaのread()に相当する。(図 \ref{fig:peek}) + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=90mm]{images/peek.pdf} +\end{center} +\caption{peekはデータをreceiverに読み込む。希望のデータがない場合は保留する} +\label{fig:peek} +\end{figure} + +\subsubsection{take} +takeもデータを読み込むためのAPIである。peekとの違いは読み込まれたデータはQueueから削除される。Lindaのin()に相当する。(図 \ref{fig:take}) +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=70mm]{images/take.pdf} +\end{center} +\caption{"take" はデータを receiver に読み込む。その際、読み込んだデータは削除される} +\label{fig:take} +\end{figure} + +\subsection{Data Segment の表現} +Data Segmentの表現にはMessage Packを利用している。Message Packに関してJavaにおけるデータ表現は以下の3種類があり、制限を伴うが互いに変換可能である。 +\begin{itemize} +\item {\ttfamily 一般的なJavaのクラスオブジェクト} +\item {\ttfamily MessagePack for JavaのValueオブジェクト} +\item {\ttfamily byte[]で表現されたbinary} +\end{itemize} + +Data Segment APIの内部においてデータは、一般的なJavaのクラスオブジェクトまたはbyteArrayで表現されたbinaryで表現されている。 +Localからデータがputされた場合は一般的なJavaのクラスオブジェクトの状態でenqueueされる。RemoteからデータがputされるとbyteArrayで表現されたbinaryの状態でenqueueされる。 + +ユーザーが一般的なクラスをIDL(Interface Definition Language)のように用いてデータを表現することができる。 +この場合、クラス宣言時に@Messageというアノテーションをつける必要がある。もちろん、MessagePackで扱うことのできるデータのみをフィールドに入れなければならない。 + +Remoteに対してputできるデータは、@MessageをもつクラスオブジェクトかMessage Packで扱える型に限られる。 + +\section{Code Segment} +Code SegmentとはAlice上で実行されるタスクの単位である。ユーザーはCode Segmentを組み合わせることでプログラミングを行う。Code Segmentをユーザーが記述する際に、内部で使用するData Segmentの作成を記述する。入力時のData SegmentをInput Data Segment、出力時をOutput Data Segmentと呼ぶ。(図 \ref{fig:dsandcs}) + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=100mm]{images/dsandcs.pdf} +\end{center} +\caption{Code SegmentはInput Data Segment とOutput Data Segmentが存在する} +\label{fig:dsandcs} +\end{figure} + +Input Data Segment と Output Data SegmentはCode Segmentに用意されているAPIを用いて作成する。 +Input Data Segmentは、LocalかRemoteか、またkeyを指定する必要がある。Code Segmentは、記述したInput Data Segmentが全て揃うとThread poolに送られ、実行される。 + +Out Data SegmentもLocalかRemoteか、またkeyを指定する必要がある。 + +Input Data SegmentとOutput Data SegmentによってCode Segmentの間の依存関係が自動的に記述される。(図 \ref{fig:dsandcs2}) + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=110mm]{images/dsandcs2.pdf} +\end{center} +\caption{Input Data Segment とOut put Data SegmentがCode Segment間の依存関係を自動的に記述する} +\label{fig:dsandcs2} +\end{figure} +現在、Inputの場合はsetKeyを呼ぶ際、Outputはput(またはupdate)の際にノードとkeyの指定を行っている。 +しかし、どの時点でノードとkeyの指定を行えばよいか、どのようなAPIを用意するべきかは、議論の余地がある。 + +\subsection{Code Segmentの実行方法} +Alice には、Start Code Segment (ソースコード \ref{src:StartCodeSegment})というC の main に相当するような最初に実行される Code Segment がある。 +\begin{table}[html] +\lstinputlisting[label=src:StartCodeSegment, caption=StartCodeSegmentの例]{source/StartCodeSegment.java} +\end{table} + +Start Code SegmentはどのData Segmentにも依存しない。つまりInput Data Segmentを持たない。 +このCode Segmentをmainメソッド内でnewし、executeメソッドを呼ぶことで実行を開始させることができる。 + +\subsection{Code Segmentの記述方法} +Code Segmentをユーザーが記述する際にはCode Segmentを継承して記述する(ソースコード \ref{src:CodeSegment})。 +Code SegmentはInput/Output Data Segment Managerを利用することができる。 + +Input DSM はCode Segmentの{\tt ids}というフィールドを用いてアクセスする。 + +\begin{table}[html] +\lstinputlisting[label=src:CodeSegment, caption=CodeSegmentの例]{source/TestCodeSegment.java} +\end{table} + +\begin{itemize} +\item {\ttfamily Receiver create(CommandType type)} +\end{itemize} +createでコマンドが実行された際に取得されるData Segmentが格納される受け皿を作る。引数にはCommandTypeが取られ、指定できるCommandTypeは{\tt PEEK}または{\tt TAKE}である。 +\begin{itemize} +\item \verb+void setKey(String managerKey, String key)+ +\end{itemize} +setKeyメソッドにより、どこのData Segmentのあるkeyに対してpeekまたはtakeコマンドを実行させるかを指定することができる。 +コマンドの結果がレスポンスとして届き次第Code Segmentは実行される。 + +Output DSMはCode Segmentの{\tt ods}というフィールドを用いてアクセスする。 +Output DSMは{\tt put}または{\tt update}を実行することができる。 +\begin{itemize} +\item \verb+void put(String managerKey, String key, Object val)+ +\item \verb+void update(String managerKey, String key, Object val)+ +\end{itemize} + + +\section{Meta Data Segment} +Meta Data SegmentはData Segmentの一種である。Data Segmentは、ユーザーがput(またはupdate)したデータを管理するData Baseであるのに対して、Meta Data Segmentは、分散フレームワークAliceがputしたデータを管理するData Baseである。管理されているデータは、主にTopology Nodeの状態を表すメタデータである。ユーザーがメタデータを扱うこともできる。 + +例えば、"start"というkeyにはTopology NodeがStart Code Segmentを実行することができる状態を表す。他にも"\_CLIST"というkeyでは、利用可能なRemote Data Segmentの名前のリストが保存されている。ユーザーはリストをpeekし、putする際にリストにある名前を指定することで、動的にデータの伝搬などを行うことができる。 + +また、Input Data Segmentに付随しているものもある。Input Data SegmentはCode Segment内部でReceiverという入れ物に格納される。ユーザーは、Receiverに対して操作することでData Segmentを入手できる。 +このReceiverには、fromというフィールドがあり、このデータを誰がputしたという情報が入っている。この情報をデータの伝搬する際に利用することで、データをputしたノードに送り返すことを防ぐことができる。 + +現在のAliceでは、メタデータはデータと同じ領域にputされているため、データと同じAPIを用いて取得できる。 + +\section{Meta Code Segment} +Meta Code SegmentはAliceを構成するCode Segmentである。 + + + +Alice自身が全てCode Segmentで記述されているため、AliceをMeta Code Segmentのかたまりと考える事ができる。 + + +\section{Topology Manager} +Aliceは複数のノードで構成され、相互に接続される。通信するノードはURLにより直接指定するのではなくTopology Managerで管理する。 +Topology Managerはトポロジーファイルを読み込み、参加を表明したクライアント(以下、Topology Node)に接続するべきTopology NodeのIPアドレス、ポート番号、接続名を送りトポロジーファイルに記述されたとおりにトポロジーを作成する。(図\ref{fig:topologymanager}) + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=70mm]{images/topologymanager.pdf} +\end{center} +\caption{Topology Manager はトポロジーファイルの記述に従ってトポロジーを生成する} +\label{fig:topologymanager} +\end{figure} + +Code Segment内部でRemote DSMにアクセスする場合はToplogyManagerによって指定されたノード内部だけで有効なlabel(文字列)を使う。これにより特定のURLがCode Segment内部に記述されることを防いでいる。 + +トポロジーファイルはグラフ構造を表現するデータ記述する言語の一種であるDOT Languageと呼ばれる言語で記述する。また、dotコマンドを用いてトポロジーファイルを可視化することができる。 + +\subsection{Topology Managerの参加表明処理} +Topology Managerへの参加表明は、Topology Node起動時にコマンドライン引数からTopology ManagerのIPアドレスとポート番号を指定すればよい。 +指定されたTopology Managerに接続を行うと、Topology Manager側のキー"hosts"に、自分自身のIPアドレスとポート番号をputする。 + +参加表明を受け取ったTopology Managerは、抽象名を参加表明したTopology Nodeのキー"host"にputする。 +その後、Topology Manager上のTopology Node名のキーに、接続すべきTopology Nodeの情報(IP アドレス、ポート番号等)を全てputする。Topology Nodeは、その情報を1つずつTakeし接続処理を行う。全ての接続処理が終わるとTopology ManagerからTopology Nodeに対してStart Code Segmentの実行命令が出され、アプリケーションが開始される。 + +\begin{figure}[htbp] +\begin{center} +\includegraphics[width=120mm]{images/topologymanagerandnode.pdf} +\end{center} +\caption{Topology ManagerとTopology Node間の通信} +\label{fig:topologymanagerandnode} +\end{figure} + +\section{Aliceによるプログラミング手法} +AliceはCode SegmentとData Segmentによってプログラミングを行なう。Code Segmentから別にCode SegmentへData Segmentを引き渡す際、コンストラクタは使わない。Code SegmentがLocal / Remote Data Segmentに対してputを行い、別のCode SegmentがLocal / Remote Data Segmentに対してpeekを行うことで引き渡される。つまり、Code Segmentは実行前後にData Segmentへ通信が行われるのである。この通信の順序がCode Segmentの実行順序を決定している。 +すなわち、Aliceによるプログラミングとは通信の管理を行うことであり、プロトコルを設計することと捉える事ができる。