comparison paper/agda.tex @ 60:1181b4facaf9

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author Yasutaka Higa <e115763@ie.u-ryukyu.ac.jp>
date Mon, 16 Feb 2015 17:09:53 +0900
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1 \chapter{証明支援系言語 Agda による証明手法}
2 \label{chapter:agda}
3 第\ref{chapter:category}章では functor, natural transformation, monad の定義を行ない、第\ref{chapter:functional_programming}章では functional programming における対応を述べた。
4 その中で、 Functor 則や Monad 則といった満たすべき性質がいくつか存在した。
5 functional programming において、あるデータ型と対応する計算が Functor 則を満たすかの保証は言語の実装に依存している。
6 例えば、 Haskell において functor は型クラスによって提供されるため、型レベルのチェックを行なう。
7 そのため、型チェックは通るが Functor 則を満たさない functor が定義できてしまう。
8 よって Haskell において Delta Monad を定義しただけでは Delta Monad が Monad であるかの証明が存在しない。
9 そこで証明支援系言語 Agda を用いて、 Delta が Functor 則と Monad 則を満たすことを証明する。
10
11 第\ref{chapter:agda}章は Agda における証明手法について述べる。
12
13 % {{{ Natural Deduction
14
15 \section{Natural Deduction}
16 \label{section:natural_deduction}
17 証明には natural deduction(自然演繹)を用いる。
18 natural deduction は Gentzen によって作られた論理と、その証明システムである~\cite{Girard:1989:PT:64805}。
19 命題変数と記号を用いた論理式で論理を記述し、推論規則により変形することで求める論理式を導く。
20
21 natural deduction において
22
23 \begin{eqnarray}
24 \vdots \\ \nonumber
25 A \\ \nonumber
26 \end{eqnarray}
27
28 と書いた時、最終的に命題Aを証明したことを意味する。
29 証明は木構造で表わされ、葉の命題は仮定となる。
30 仮定には dead か alive の2つの状態が存在する。
31
32 \begin{eqnarray}
33 \label{exp:a_implies_b}
34 A \\ \nonumber
35 \vdots \\ \nonumber
36 B \\ \nonumber
37 \end{eqnarray}
38
39 式\ref{exp:a_implies_b}のように A を仮定して B を導くことができたとする。
40 この時 A は alive な仮定である。
41 証明された B は A の仮定に依存していることを意味する。
42
43 ここで、推論規則により記号 $ \Rightarrow $ を導入する。
44
45 \begin{prooftree}
46 \AxiomC{[$ A $]}
47 \noLine
48 \UnaryInfC{ $ \vdots $}
49 \noLine
50 \UnaryInfC{ $ B $ }
51 \RightLabel{ $ \Rightarrow \mathcal{I} $}
52 \UnaryInfC{$ A \Rightarrow B $}
53 \end{prooftree}
54
55 そうすると、仮定 A は dead となり、新たな命題 $ A \Rightarrow B $ を導くことができる。
56 A という仮定に依存して B を導く証明から、「A が存在すれば B が存在する」という証明を導いたこととなる。
57 このように、仮定から始めて最終的に全ての仮定を dead とすることで、仮定に依存しない証明を導くことができる。
58 なお、dead な仮定は \verb/[A]/ のように \verb/[]/ で囲んで書く。
59
60 alive な仮定を dead にすることができるのは $ \Rightarrow \mathcal{I} $ 規則のみである。
61 それを踏まえ、 natural deduction には以下のような規則が存在する。
62
63 \begin{itemize}
64 \item Hypothesis
65
66 仮定。葉にある式が仮定となるため、論理式A を仮定する場合に以下のように書く。
67
68 $ A $
69
70 \item Introductions
71
72 導入。証明された論理式に対して記号を導入することで新たな証明を導く。
73
74
75 \begin{prooftree}
76 \AxiomC{ $ \vdots $}
77 \noLine
78 \UnaryInfC{ $ A $ }
79 \AxiomC{ $ \vdots $}
80 \noLine
81 \UnaryInfC{ $ B $ }
82 \RightLabel{ $ \land \mathcal{I} $}
83 \BinaryInfC{$ A \land B $}
84 \end{prooftree}
85
86 \begin{prooftree}
87 \AxiomC{ $ \vdots $}
88 \noLine
89 \UnaryInfC{ $ A $ }
90 \RightLabel{ $ \lor 1 \mathcal{I} $}
91 \UnaryInfC{$ A \lor B $}
92 \end{prooftree}
93
94 \begin{prooftree}
95 \AxiomC{ $ \vdots $}
96 \noLine
97 \UnaryInfC{ $ B $ }
98 \RightLabel{ $ \lor 2 \mathcal{I} $}
99 \UnaryInfC{$ A \lor B $}
100 \end{prooftree}
101
102 \begin{prooftree}
103 \AxiomC{[$ A $]}
104 \noLine
105 \UnaryInfC{ $ \vdots $}
106 \noLine
107 \UnaryInfC{ $ B $ }
108 \RightLabel{ $ \Rightarrow \mathcal{I} $}
109 \UnaryInfC{$ A \Rightarrow B $}
110 \end{prooftree}
111
112 \item Eliminations
113
114 除去。ある論理記号で構成された証明から別の証明を導く。
115
116 \begin{prooftree}
117 \AxiomC{ $ \vdots $}
118 \noLine
119 \UnaryInfC{ $ A \land B $ }
120 \RightLabel{ $ \land 1 \mathcal{E} $}
121 \UnaryInfC{$ A $}
122 \end{prooftree}
123
124 \begin{prooftree}
125 \AxiomC{ $ \vdots $}
126 \noLine
127 \UnaryInfC{ $ A \land B $ }
128 \RightLabel{ $ \land 2 \mathcal{E} $}
129 \UnaryInfC{$ B $}
130 \end{prooftree}
131
132 \begin{prooftree}
133 \AxiomC{ $ \vdots $}
134 \noLine
135 \UnaryInfC{ $ A \lor B $ }
136
137 \AxiomC{[$A$]}
138 \noLine
139 \UnaryInfC{ $ \vdots $}
140 \noLine
141 \UnaryInfC{ $ C $ }
142
143 \AxiomC{[$B$]}
144 \noLine
145 \UnaryInfC{ $ \vdots $}
146 \noLine
147 \UnaryInfC{ $ C $ }
148
149 \RightLabel{ $ \lor \mathcal{E} $}
150 \TrinaryInfC{ $ C $ }
151 \end{prooftree}
152
153 \begin{prooftree}
154 \AxiomC{ $ \vdots $}
155 \noLine
156 \UnaryInfC{ $ A $ }
157
158 \AxiomC{ $ \vdots $}
159 \noLine
160 \UnaryInfC{ $ A \Rightarrow B $ }
161
162 \RightLabel{ $ \Rightarrow \mathcal{E} $}
163 \BinaryInfC{$ B $}
164 \end{prooftree}
165
166 \end{itemize}
167
168 記号 $ \lor, \land, \Rightarrow $ の導入の除去規則について述べた。
169 natural deduction には他にも $ \forall, \exists, \bot $ といった記号が存在するが、ここでは解説を省略する。
170
171 それぞれの記号は以下のような意味を持つ
172 \begin{itemize}
173 \item $ \land $
174 conjunction。2つの命題が成り立つことを示す。
175 $ A \land B $ と記述すると A かつ B と考えることができる。
176
177 \item $ \lor $
178 disjunction。2つの命題のうちどちらかが成り立つことを示す。
179 $ A \lor B $ と記述すると A または B と考えることができる。
180
181 \item $ \Rightarrow $
182 implication。左側の命題が成り立つ時、右側の命題が成り立つことを示す。
183 $ A \Rightarrow B $ と記述すると A ならば B と考えることができる。
184 \end{itemize}
185
186 例として、natural deduction で三段論法を証明する。
187 なお、三段論法とは「A は B であり、 B は C である。よって A は C である」といった文を示すこととする。
188
189 \begin{prooftree}
190 \AxiomC{ $ [A] $ $_{(1)}$}
191 \AxiomC{ [$ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)$] $_{(2)}$ }
192 \RightLabel{ $ \land 1 \mathcal{E} $ }
193 \UnaryInfC{ $ (A \Rightarrow B) $ }
194 \BinaryInfC{ $ B $ }
195
196 \AxiomC{ [$ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)$] $_{(2)}$ }
197 \RightLabel{ $ \land 2 \mathcal{E} $ }
198 \UnaryInfC{ $ (B \Rightarrow C) $ }
199
200 \BinaryInfC{ $ C $ }
201 \RightLabel{ $ \Rightarrow \mathcal{I} _{(1)}$}
202 \UnaryInfC{ $ A \Rightarrow C $}
203 \RightLabel{ $ \Rightarrow \mathcal{I} _{(2)}$}
204 \UnaryInfC{ $ ((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)) \Rightarrow (A \Rightarrow C) $}
205 \end{prooftree}
206
207 まず、三段論法を論理式で表す。
208
209 「A は B であり、 B は C である。よって A は C である」 が証明するべき命題である。
210 まず、「A は B であり」から、Aから性質Bが導けることが分かる。これが $ A \Rightarrow B $ となる。
211 次に、「B は C である」から、Bから性質Cが導けることが分かる。これが $ B \Rightarrow C $ となる。
212 そしてこの2つは同時に成り立つ。
213 よって $ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)$ が仮定となる。
214 この仮定が成り立つ時に「Aは Cである」を示せば良い。
215 仮定と同じように「A は C である」は、 $ A \Rightarrow C $ と書けるため、証明するべき論理式は $ ((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)) \Rightarrow (A \Rightarrow C) $ となる。
216
217 証明の手順はこうである。
218 まず条件$ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)$とAの2つを仮定する。
219 条件を $ \land 1 \mathcal{E} $ $ \land 2 \mathcal{E} $ により分解する。
220 A と $ A \Rightarrow B$ から B を、 B と $ B \Rightarrow C $ から C を導く。
221 ここで $ \Rightarrow \mathcal{I} $ により $ A \Rightarrow C $ を導く。
222 この際に dead にする仮定は A である。
223 数回仮定を dead にする際は $_{(1)} $ のように対応する \verb/[]/の記号に数値を付ける。
224 これで残る alive な仮定は $ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)$ となり、これから $ A \Rightarrow C $ を導くことができたためにさらに $ \Rightarrow \mathcal{I} $ を適用する。
225 結果、証明すべき論理式$ ((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)) \Rightarrow (A \Rightarrow C) $ が導けたために証明終了となる。
226
227 % }}}
228
229 % {{{ Curry-Howard Isomorphism
230
231 \section{Curry-Howard Isomorphism}
232 \label{section:curry_howard_isomorphism}
233 \ref{section:natural_deduction}節では natural deduction における証明手法について述べた。
234 natural deduction における証明は Curry-Howard Isomorphism により型付き $ \lambda $ 計算と対応している。
235
236 $ \lambda $ 計算とは、計算モデルの1つであり、計算の実行を関数への適用としてモデル化したものである。
237 関数は $ \lambda $ 式として表され、引数を1つ取りその引数を計算する関数は式\ref{exp:lambda_expression}のように記述される。
238
239 \begin{equation}
240 \label{exp:lambda_expression}
241 \lambda x . x
242 \end{equation}
243
244 値と $ \lambda $ 式には型を付与することができ、その型の計算が natural deduction と対応している。
245
246 例えば命題Aが成り立つためには A という型を持つ値が存在すれば良い。
247 しかしこの命題は A という alive な仮定に依存している。
248 natural deduction では A の仮定を dead にするために $ \Rightarrow \mathcal{I} $ により $ \Rightarrow $ を導入する。
249 これが $ \lambda $ による抽象化に対応している。
250
251 \begin{eqnarray}
252 x : A \\ \nonumber
253 \lambda x . x : A \rightarrow A
254 \end{eqnarray}
255
256 プログラムにおいて、変数 x は内部の値により型が決定される。
257 特に、x の値が未定である場合は未定義の変数としてエラーが発生する。
258 しかし、 x を取って x を返す関数は定義することはできる。
259 これは natural deduction の $ \Rightarrow \mathcal{I} $ により仮定を discharge することに相当する。
260
261 このように、 natural deduction における証明はそのまま 型付き $ \lambda $ 計算に変換することができる。
262
263 それぞれの詳細な対応は省略するが、表\ref{tbl:curry_howard_isomorphism} のような対応が存在する。
264
265 \begin{center}
266 \begin{table}[htbp]
267 \begin{tabular}{|c||c|c|} \hline
268 & natural deduction & 型付き $ \lambda $ 計算 \\ \hline \hline
269 hypothesis & $ A $ & 型 A を持つ変数 x \\ \hline
270 conjunction & $ A \land B $ & 型 A と型 B の直積型 を持つ変数 x \\ \hline
271 disjunction & $ A \lor B $ & 型 A と型 B の直和型 を持つ変数 x \\ \hline
272 implication & $ A \Rightarrow B $ & 型 A を取り型 B の変数を返す関数 f \\ \hline
273 \end{tabular}
274 \caption{natural deuction と 型付き $ \lambda $ 計算との対応}
275 \label{tbl:curry_howard_isomorphism}
276 \end{table}
277 \end{center}
278
279 \ref{section:natural_deduction}節でも行なった三段論法の証明を Haskell により行なうとリスト\ref{src:modus_ponens}となる。
280
281 \begin{table}[html]
282 \lstinputlisting[label=src:modus_ponens, caption=Haskell における三段論法の証明] {src/modus_ponens.txt}
283 \end{table}
284
285 証明は $ \lambda $ 式の型として表現される。
286 Haskell における $ \lambda $ 式は \verb| \x -> x| のように表される。
287 \verb/\/ と \verb/->/ の間が引数であり、 \verb/->/ の後に処理を記述する。
288 また、$ \land $ に対応する直積型は tuple として提供される。
289 A と B の直積型は $ (A, B) $ として表現される。
290 そして、 $ \land 1 \mathcal{E} $ に対応する処理は関数 fst 、 $ \land 2 \mathcal{E} $ に対応する処理は関数 snd として提供される。
291 fst と snd が $ \land $ の除去に対応しているのは型を見ることで分かる。
292
293 そして三段論法の証明の解説を行なう。
294 三段論法の仮定は、$ (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C) $ であった。
295 この仮定を変数 cond として受けとる。
296 cond に対して fst を行なうことで $ (A \Rightarrow B) $ を、snd を行なうことで $ (B \Rightarrow C) $ を証明する。
297 ここでさらに仮定 a を導入し、$ (A \Rightarrow B) $ と$ (B \Rightarrow C) $ に適用することで C を得る。
298
299 結果、 \verb/\cond -> (\a -> (snd cond ((fst cond) a)))/のような式が得られ、この型を確認すると正しく三段論法の証明となっている。
300 なお、型推論の際に A はt2 に、 B は t1 に、 C は t という型名になっている。
301
302 % }}}
303
304 % {{{ Agda による証明
305
306 \section{Agda による証明}
307 \label{section:agda}
308 \ref{section:curry_howard_isomorphism}節において型を用いて証明を行なう手法を述べた。
309 しかし、Haskell における型システムは証明を記述するために用いるものではない。
310 よって、依存型を持つ証明支援言語 Agda を用いて証明を記述する。
311
312 依存型とは値に依存した型を作ることができる型であり、非常に表現能力が高い。
313 値に型を使うことができるために証明に基づいた証明を記述することができる。
314
315 $ \Rightarrow \mathcal{E} $ に対応する関数適用を Agda で記述するとリスト\ref{src:apply_function_in_agda}のようになる。
316
317 \begin{table}[html]
318 \lstinputlisting[label=src:apply_function_in_agda, caption=Agda における $ \Rightarrow \mathcal{E} $ ] {src/apply_function.agda}
319 \end{table}
320
321 Agda による型注釈は \verb/ term : type/ と記述する。
322 postulate とすると alive な証明を記述することができる。
323 まずは alive な A を仮定している。
324 なお、Set 型は型の型として組込みで用意されている型である。
325 そのため詳細は省略するが、 A は型であると考える。
326
327 次に関数 f を仮定する。
328 仮定に用いられている記号 \verb/{}/ の内部の式は implicit な paramter である。
329 任意の B の対してこの型が成り立つことを記述している。
330 implicit な parameter は可能であれば Agda が推論する。
331 そのため、f の見掛け上の型は \verb/A -> B/のようになる。
332 ここで、 B に明示的に値を代入することで f の型を変更することもできる。
333 このように Agda では型における引数のようなものが存在し、型の表現能力が高い。
334
335 A と f の2つを仮定したところで、証明である \verb/->E/を定義する。
336 証明するべき式は \verb/->E/ の型として与えられ、証明は \verb/->E/ の式として記述する。
337 式の型に対する定義を正しく行なうことで証明を与える。
338
339 $ \Rightarrow \mathcal{E} $ に対応する \verb/->E/ は関数の適用なので、値a と関数 f を受けとって適用することで B が得られる。
340 なお、仮定を alive のまま証明を記述するのは依存した仮定を残すことになるため、必要な仮定を引数として受けとったり、implicit な parameter として指定して証明するのが良い。
341
342 また、Agda は証明に用いる規則なども Agda 内部で定義することができる。
343 例えば、直積型の定義はリスト\ref{src:product}のようなものがある。
344
345 \begin{table}[html]
346 \lstinputlisting[label=src:product, caption=Agdaにおける直積型の例] {src/product.agda.replaced}
347 \end{table}
348
349 関数の定義時に \verb/_/ とした部分には項を入れることで関数が適用される。
350 つまり \verb/_/$ \times $\verb/_/ とすれば中置関数を作成することができる。
351 データ型 \verb/_/$ \times $\verb/_/ は型 A と B を持つ型である。
352 データ型 \verb/_/$ \times $\verb/_/ はコンストラクタ \verb/<_,_>/ により構成され、コンストラクタは A と B を取ることで $ A \times B $ 型を返す。
353
354 例えば型A と B から 直積型 $ A \times B $ が作成できる証明は constructProduct である。
355 任意の型AとBを受けとり、コンストラクタ \verb/<_,_>/を用いて $ A \times B $ に相当する値を返す。
356
357 また、コンストラクタは引数にてパターンマッチにより分解することができる。
358 その例が patternMatchProduct である。
359 受けとる引数の型は $ A \times B $ であるため、ありえるコンストラクタは \verb/<_,_>/のみである。
360 よって引数を取る際に \verb/< a , b >/ のように対応するコンストラクタと変数を用意することで、コンストラクタに基づいて値を分解することができる。
361 $ A \times B$ 型から B を取るために、$ A \times B$ 型の引数を変数にを直接束縛せずにコンストラクタで分解し、a と b に束縛することで A と B を得る。
362 b を返すことで型 B の値を返すことができる。
363 そのため、 patternMathProduct は $ \land 2 \mathcal{E} $ そのものである。
364
365 % }}}
366
367 % {{{ Reasoning
368
369 \section{Reasoning}
370 \label{section:reasoning}
371 \ref{section:agda} 節ではAgdaにおける証明の手法について解説した。
372 \ref{section:reasoning}節では Agda における証明の例として、自然数の加法の交換法則を証明する。
373
374 まずは自然数を定義する。
375 今回用いる自然数の定義は以下のようなものである。
376
377 \begin{itemize}
378 \item 0 は自然数である
379 \item 任意の自然数には後続数が存在する
380 \item 0 はいかなる自然数の後続数でもない
381 \item 異なる自然数どうしの後続数は異なる ($ n \neq m \rightarrow S n \neq S m $)
382 \item 0がある性質を満たし、aがある性質を満たせばその後続数 S(n) も自然数である
383 \end{itemize}
384
385 この定義は peano arithmetic における自然数の定義である。
386
387 Agda で自然数型 Nat を定義するとリスト \ref{src:nat} のようになる。
388
389 \begin{table}[html]
390 \lstinputlisting[label=src:nat, caption=Agda における自然数型 Nat の定義] {src/nat.agda}
391 \end{table}
392
393 自然数型 Nat は2つのコンストラクタを持つ。
394
395 \begin{itemize}
396 \item O
397
398 引数を持たないコンストラクタ。これが0に相当する。
399
400 \item S
401
402 Nat を引数に取るコンストラクタ。これが後続数に相当する。
403
404 \end{itemize}
405
406 よって、数値の 3 は \verb/S (S (S O))/ のように表現される。
407 Sの個数が数値に対応する。
408
409 次に加算を定義する(リスト\ref{src:nat_add})。
410
411 \begin{table}[html]
412 \lstinputlisting[label=src:nat_add, caption=Agdaにおける自然数型に対する加算の定義] {src/nat_add.agda}
413 \end{table}
414
415 加算は中置関数 \verb/_+_/ として定義する。
416 2つの Nat を取り、Natを返す。
417 関数 \verb/_+_/ はパターンマッチにより処理を変える。
418 0に対して m 加算する場合は m であり、 n の後続数に対して m 加算する場合は n に m 加算した数の後続数とする。
419 S を左の数から右の数へ1つずつ再帰的に移していくような加算である。
420
421 例えば 3 + 1 といった計算は (S (S (S O))) + (S O) のように記述される。
422 ここで 3 + 1 が 4と等しいことの証明を行なう。
423
424 等式の証明には agda の standard library における Relation.Binary.Core の定義を用いる。
425
426 \begin{table}[html]
427 \lstinputlisting[label=src:equiv, caption= Relation.Binary.Core による等式を示す型 $ \equiv $] {src/equiv.agda.replaced}
428 \end{table}
429 Agda において等式は、等式を示すデータ型 $ \equiv $ により定義される。
430 $ \equiv $ は同じ両辺が同じ項に簡約される時にコンストラクタ refl で構築できる。
431
432 実際に 3 + 1 = 4 の証明は refl で構成できる(リスト\ref{src:three_plus_one})。
433
434 \begin{table}[html]
435 \lstinputlisting[label=src:three_plus_one, caption= Agda における 3 + 1 の結果が 4 と等しい証明] {src/three_plus_one.agda}
436 \end{table}
437
438 3+1 という1つの関数を定義し、その型として証明すべき式 \verb/(S (S (S O))) + (S O)≡(S (S (S (S O))))/ を記述する。
439 そして証明を関数の定義として記述する。
440 今回は \verb/_+_/ 関数の定義により \verb/ (S (S (S (S O)))) / に簡約されるためにコンストラクタ refl が証明となる。
441
442 $ \equiv $ によって証明する際、必ず同じ式に簡約されるとは限らないため、いくつかの操作が Relation.Binary.PropositionalEquality に定義されている。
443
444 \begin{itemize}
445 \item sym : $ x \equiv y \rightarrow y \equiv x $
446
447 等式が証明できればその等式の左辺と右辺を反転しても等しい。
448
449 \item cong : $ f \rightarrow x \equiv y \rightarrow f x \equiv f y $
450
451 証明した等式に同じ関数を与えても等式は保たれる。
452
453 \item trans : $ x \equiv y \rightarrow y \equiv z \rightarrow x \equiv z $
454
455 2つの等式に表れた同じ項を用いて2つの等式を繋げた等式は等しい。
456 \end{itemize}
457
458 ではこれから nat の加法の交換法則を証明していく(リスト\ref{src:nat_add_sym})。
459
460 \begin{table}[html]
461 \lstinputlisting[label=src:nat_add_sym, caption= Agda における加法の交換法則の証明] {src/nat_add_sym.agda}
462 \end{table}
463
464 証明する式は $ n + m \equiv m + n $ である。
465 n と m は Nat であるため、それぞれがコンストラクタ O か S により構成される。
466 そのためにパターンは4通りある。
467
468 \begin{itemize}
469 \item n = O, m = O
470
471 + の定義により、 O に簡約されるため refl で証明できる。
472
473 \item n = O, m = S m
474
475 $ O + (S m) \equiv (S m) + O $ を証明することになる。
476 この等式は + の定義により $ O + (S m) \equiv S (m + O) $ と変形できる。
477 $ S (m + O) $ は $ m + O $ に S を加えたものであるため、 cong を用いて再帰的に \verb/addSym/ を実行することで証明できる。
478
479 この2つの証明はこのような意味を持つ。
480 n が 0 であるとき、 m も 0 なら簡約により等式が成立する。
481 n が 0 であり、 m が 0 でないとき、 m は後続数である。
482 よって m が (S x) と書かれる時、 x は m の前の値である。
483 前の値による交換法則を用いてからその結果の後続数も + の定義により等しい。
484
485 ここで、 \verb/addSym/ に渡される m は1つ値が減っているため、最終的には n = 0, m = 0 である refl にまで簡約され、等式が得られる。
486
487 \item n = S n, m = O
488
489 $ (S n) + O \equiv O + (S n) $ を証明する。
490 この等式は + の定義により $ S (n + O) \equiv (S n) $ と変形できる。
491 さらに変形すれば $ S (n + O) \equiv S (O + n) $ となる。
492 よって \verb/addSym/ により O と n を変換した後に cong で S を加えることで証明ができる。
493
494 ここで、 $ O + n \equiv n $ は + の定義により自明であるが、$ n + O \equiv n $ をそのまま導出できないことに注意して欲しい。
495 + の定義は左側の項から S を右側の項への移すだけであるため、右側の項への演算はしない。
496
497 \item n = S n, m = S m
498
499 3つのパターンは証明したが、このパターンは少々長くなるため別に解説することとする。
500 \end{itemize}
501
502 3 つのパターンにおいては refl や cong といった単純な項で証明を行なうことができた。
503 しかし長い証明になると refl や cong といった式を trans で大量に繋げていく必要性がある。
504 長い証明を分かりやすく記述するために $ \equiv $-Reasoning を用いる。
505
506 $ \equiv $-Reasoning では等式の左辺を begin の後に記述し、等式の変形を $ \equiv \langle expression \rangle $ に記述することで変形していく。
507 最終的に等式の左辺を $ \blacksquare $ の項へと変形することで等式の証明が得られる。
508
509 自然数の加法の交換法則を $ \equiv $-Reasoning を用いて証明した例がリスト\ref{src:nat_add_sym_reasoning}である。
510 特に n と m が1以上である時の証明に注目する。
511
512 \begin{table}[html]
513 \lstinputlisting[label=src:nat_add_sym_reasoning, caption= $ \equiv $ - Reasoning を用いた証明の例] {src/nat_add_sym_reasoning.agda.replaced}
514 \end{table}
515
516 まず \verb/ (S n) + (S m)/ は + の定義により \verb/ S (n + (S m)) / に等しい。
517 よって refl で導かれる。
518 なお、基本的に定義などで同じ項に簡約される時は refl によって記述することが多い。
519
520 次に \verb/S (n + (S m)) / に対して addSym を用いて交換し、 cong によって S を追加することで \verb/ S ((S m) + n) / を得る。
521 これは、前3パターンにおいて + の右辺の項が 1以上であっても上手く交換法則が定義できたことを利用して項を変形している。
522 このように同じ法則の中でも、違うパターンで証明できた部分を用いて別パターンの証明を行なうこともある。
523
524 最後に \verb/S ((S m) + n)/ から \verb/(S m) + (S n)/を得なくてはならない。
525 しかし、 + の定義には右辺に対して S を移動する演算が含まれていない。
526 よってこのままでは証明することができない。
527 そのため、等式 $ S (m + n) \equiv m + (S n) $ を addToRight として定義する。
528 addToRight の証明の解説は省略する。
529 addToRight を用いることで \verb/S ((S m) + n)/ から \verb/(S m) + (S n)/を得られた。
530 これで等式 $ (S m) + (S n) \equiv (S n) + (S m) $ の証明が完了した。
531
532 自然数に対する + の演算を考えた時にありえるコンストラクタの組み合せ4パターンのいずれかでも交換法則の等式が成り立つことが分かった。
533 このように、Agda における等式の証明は、定義や等式を用いて右辺と左辺を同じ項に変形することで行なわれる。
534
535 % }}}